(はは)写真が欲しかった。取った大腸を本人が見ることはできない?
手術前に息子に頼まれたのは、術前・術後の自分を写真に撮ってほしいということ。私も写真で記録を残すのが好きなのでその気持ちはよくわかります。息子によると、できれば術後にベッドに載せられたまま部屋に戻って来て、まだ麻酔が冷めないうちから撮ってほしいそうです。自分が知らない自分の様子も見てみたいとのこと。その気持ちもすごくわかります。
なので、本来は私が撮影担当になって息子の写真をたくさん撮ってあげる予定でしたが、息子の手術時間が変更になり、私の大事な仕事と時間帯が重なってしまい、私はその役目を引き受けることができなくなってしまいました。そこでカメラを母に渡して、撮影係は81歳のうちの母が引き受けることに。(夫は写真がへたくそなので、普段から写真を撮り慣れている母のほうがあきらかに適任)
そのことを息子は非常に残念がり、「お母さんが撮ってくれたらいいんだけどなぁ・・・」と、何度か言っていました。が、仕方ないので、息子はデジカメを母に渡して、使い方を伝授。息子は画質重視のデジカメ派なのでスマホではなくデジカメで撮ってほしいとのこと。その説明が終わったので、母と夫はデイルームに戻っていきました。他の患者さんの迷惑になるし話し声がうるさいので、家族が複数、病室にいると注意されるんです。
その後は手術の時間が来るまで、私だけが病室に残り、雑談をしたり、お腹にマジックで書かれた位置決めの印などを見せられたり。
さて、そのときに、先に同じ手術を終えたKさんが、摘出した自分の大腸の写真を持っている、と息子が話してくれて、「それ、俺も、ぜひ、欲しいんだよね。見せられた時に先生に行ってみようかな、そんなことも考えていたんだよね。」あぁ、そうかもね。もう、大腸がない人になっちゃうんだもんね、切ないね。
そんな話息子の話から、なんとなく患者本人が摘出した大腸を目にするタイミングがあるのだろうと漠然と思い込んでいましたが、まさかそれが術後、家族にサラッと見せられただけで、すぐに解剖処理されるとは思っていませんでした。
手術当日の午前中、病室で着替えて点滴を付けたまま看護師さんと歩いて移動する息子に付き添って、手術室の前まで一緒に行くことはできましたが、残念ながら私はどうしても抜けられない仕事があり、いったんそこから仕事先へ。そして、仕事が終わって病院に戻ろうとすると、Facebookに突然以下のメッセージが。夫は写真とか、割とどうでもいい感じなんですよね^^
えーー!手術が無事終わったことよりも、病院で付き添っている夫と母のほうに、もう摘出した大腸が見せられちゃっていることに焦り、思わず速攻で「写真撮った?」と送り、矢継ぎ早に、息子がその写真を欲しがっていたことを伝えました。迂闊だった!!!うわ、摘出した大腸ってこのタイミングで本人ではなく家族のほうに見せられるのね・・・
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病室に急いで戻り、真っ先にその話を出してみると、やっぱり写真は誰も撮らなかったとのこと。
あーーー。私がそこまでちゃんと、気をまわして、母にきちんと言っていればよかった。息子には本当に申し訳ない。
元々そういうのが苦手は夫は「俺は見るのだけで精いっぱい」母は「とてもそんな気になれなかった」
まぁ、普通はそうだと思います。看護師さんに「すみません。母親の私も息子の大腸を見たかったんですけど」と、母親的アプローチで懇願してみると(本当は写真が撮りたいのですが)「さぁ、たぶん、もう、病理解剖に回っていると思います」
負けずに食い下がってみます。「あのぉ、実は息子が・・・息子が写真が欲しいって言っていて。たぶん、自分のもうなくなってしまった自分の臓器の写真をとっておきたいんだと思います。別れを告げたいんだと思います(←とっさの思い付き)」
すると看護師さんが、「じゃ、先生に一応言ってみますから」と、困ったようなあきれたような態度で、一応、約束してくれました。
そっけない態度でしたが、看護師さんはその伝言をきちんと先生に伝えてくれたようです。先生が術後の回診でHCUに来た時にデジカメを持参してくれて、息子の枕もとでカメラをかざして、撮った大腸の写真をパッパッと何枚か見せてくれました。
おっとっと、母親たるもの、ここは頑張って食いつかないと!「先生、この写真っていただけないでしょうか。息子がとっておきたいそうです」と、再びお願いしてみる。うーん、変な母親って思われるかも。でも、大腸の写真が撮れなかったと分かったときの、息子の茫然自失にも似た落胆と「それが一番欲しかったのに・・・」と、30を過ぎて泣き出しそうな表情を見ていると、なんとかしてあげたくてしかたありません。
で、結局、先生は写真を息子にくれる約束をしてくれました。本当にくれるかどうかはわかりませんが、(例えば忘れてしまうとかそんな感じ?)そのひとことで、やっと責任を果たした感じがしました。
なにやってんだろうね、うちら家族?って思われるかもしれませんが、病人の願いはかなえてあげたいって、こんなときは皆、思うんだよ、やっぱり。術後はきっと、みんな、変なのです・・・
そしてその夜、息子があまりに落胆ぶりを気の毒に思ったうちの母が、記憶をたどってその日のうちに、見せられた大腸を水彩画で描いてくれました。(うちの母は油絵が趣味なのです)
決して見て気持ちのいい絵ではありませんが、人が描く絵ってわかりやすいものですね。絵というのは見た人の感覚や感じたことが素直にそのまま表現されるのだ、と改めて思いました。ポリープやびらんがひどい所は色濃くボツボツと、何もない所は軽い着色のみで、母が見たままの感覚がそのまま伝わってきます。
これはとても貴重な記録になると思いました。
【07月17日追記】
07月10日に、摘出した大腸の写真を外科医の先生にいただきました。正確には、写真(印画紙)やデータではなく、写真をA4の用紙に印刷したものだったため、息子は少々不満もあったようですが、どういった形であれ、先生が約束を忘れずにいたことに感謝したいです。うーしー、よかったね。